家具や建築部品の分野では、すべてのメーカーが製品の組み立てに接着剤を利用しています。なかでもポリウレタン(PUR)ホットメルト接着剤は、エッジバンディング、フラットラミネーション、プロファイルラッピングなど、高い性能が求められる用途に適しています:
- 優れた耐熱性
- 高い耐湿性
- 多様な素材への優れた接着性
- 少量でも効果を発揮
PURホットメルト接着剤は、使用時に加熱して溶融状態にし、空気中の水分と反応させることで硬化します。この反応により、耐熱性・耐薬品性に優れた架橋ポリマーが形成されます。これによって、木材、プラスチック、ガラス、金属など、さまざまな素材に対応できる多様なポリマーの設計を可能にし、素材ごとに異なる熱膨張率の差も吸収することで、以下のような優れた特性を実現します:
- 幅広い用途に対応(エッジバンディング、ソフトフォーミング、面材接着、ラミネーション、プロファイルラッピング)
- 高い耐熱性(>150°C/>302°F)と低温下でも柔軟性を維持
- 優れた耐湿性と耐溶剤性
PURホットメルト接着剤は、イソシアネート(厳密にはジイソシアネート)とポリオールから構成されています。これらの成分が組み合わさることで、中間体であるプレポリマーが生成されます。このプレポリマーは、お客様の作業工程において反応硬化し、極めて高分子量の完全に架橋されたポリマーへと変化します。これが反応性製品と呼ばれるもので、こうした製品には、反応性の高いモノマー状態のジイソシアネート(遊離ジイソシアネート)がごくわずかではありますが含まれています。
PUR系化合物は、使用時に加熱されることで、その中に含まれる各モノマー成分およびポリマー成分の蒸気圧が上昇します(これは他の有機化合物でも同様です)。モノマー状ジイソシアネートは常温(20℃)での蒸気圧が非常に低く(0.000005mmHg)抑えられていますが、加熱条件によっては微量のジイソシアネートが気化し、空気中に拡散する可能性があります。特に高温環境では、この可能性が高まります。気化したジイソシアネートは、吸入や皮膚への接触によってアレルギー反応を引き起こす可能性があり、繰り返しの曝露によって重度の喘息発作を招くこともあります。
こうした背景から、リスクを抑える手段として有効なのが、ヘンケルが開発した「マイクロエミッション製品」です。従来のポリウレタンホットメルト接着剤には、モノマー状ジイソシアネートが2~5%含まれているのが一般的です。
排気システム、個人用保護具(PPE)、飛散防止スクリーンといった皮膚への接触を防ぐ対策を講じることで、作業者へのリスクは可能な限り低減できます。こうした対策に加えて、マイクロエミッション製品への切り替えを行うことで、さらに安全性を高めることが可能です。さらに、マイクロエミッション製品は、今後施行される法規制の対象外となっており、従来のホットメルト接着剤と同じ生産ラインで使用できるほか、最終製品の仕上がりや品質も遜色はありません。そのため、作業者の安全性を高めるだけでなく、企業にとっても扱いやすく現実的な選択肢となります。
空気中に拡散したジイソシアネートが引き起こすリスクについては、すでに作業環境における許容濃度(曝露限界値) によって規制が行われています。そして現在、この曝露限界値をさらに引き下げるための規制強化の動きが進んでいます。とくに注目されているのが、欧州化学品庁(ECHA)によって導入されたREACH(化学物質の登録・評価・認可および制限)です。2020年8月、REACHの附属書XVIIの改定が施行され、ジイソシアネートの単体およびそれを含む混合物に対して、より厳しい規制が導入されました。
さらに、2022年2月24日以降は、ジイソシアネートを含むすべての製品(単体として供給される場合も、他の製品との混合物として供給される場合も、ジイソシアネートの濃度が0.1%以上であるもの)に対して、パッケージに特定の注意喚起文を明記することが義務付けられています。「2023年8月24日以降、産業用途または業務用途で使用する場合には、所定のトレーニングの受講が義務付けられます。」そして2023年8月24日以降、下記の厳格な要件を満たさない限り、これらの製品は一切使用できなくなります。
ジイソシアネートを業務で使用する場合には、いずれかの要件を満たす必要があります。ひとつは、使用するすべての混合物に含まれるジイソシアネートの濃度が0.1%未満であること。もうひとつは、産業用途または業務用途でジイソシアネートを取り扱うすべての作業者が、使用前に「安全な取り扱いに関する所定のトレーニング」を修了し、修了証を取得していることです。このトレーニングは、5年ごとの定期的な受講が義務付けられています。上記は、詳しい情報やトレーニング資料のダウンロードについては、safeusediisocyanates.euをご覧ください。※ただし、EU圏内でのみ有効な情報が含まれている場合がありますので、詳細については各国の法令をご確認ください。
ヘンケルはマイクロエミッション接着剤技術の分野におけるマーケットリーダーであり、開発、生産、カスタマーサービスにおいて10年以上の経験を有しています。ヘンケルのマイクロエミッションPURホットメルト製品は、「ジイソシアネート濃度0.1%未満」という要件を満たすことで、新たに義務付けられるトレーニングを受けることなく、これまで通りの作業を安全に継続することが可能になります。
最終的に、規制対応の方法を選ぶのはお客様自身です。マイクロエミッション製品への切り替えを選ぶか、所定のトレーニングを実施するか、いずれの選択肢も可能です。どちらを選ばれる場合でも、ヘンケルはお客様を全力でサポートいたします。技術サポートやサービス体制、そして長年にわたる研究開発の経験に基づき、マイクロエミッション製品が実際の製造環境でもスムーズかつ効果的に機能するよう、万全の体制を整えています。&
今後は、より安全でサステナブルな技術が次々と登場し、広く採用されていくものと思われます。ヘンケルでは、さまざまな業界のお客様がそれぞれの目標を達成し、サステナビリティの実現に向けて前進できるよう、さらなる技術開発に日々取り組んでいます。
接着剤はあらゆる場面で使用されるからこそ、安全性と実用性の両立が欠かせません。規制対応だけでなく、人の健康や環境に配慮した視点からも、よりリスクの少ない、理想的には有害性のない原料への転換が求められています。ヘンケルでは、製品イノベーションとリスク管理の両立を重視した取り組みを推奨しています。
より広い視点では、製品やソリューションにサステナビリティを求める声が、顧客や消費者の間で確実に高まっています。この明確なニーズを受けて、ヘンケルではバイオ由来接着剤やリサイクル可能な接着剤など、革新的なソリューションの開発を優先的に進めています。
たしかに、キッチンユニットのような製品において、接着剤による温室効果ガスの排出量は全体のごく一部にすぎないかもしれません。しかし、私たちの業界は常に先を見据えて進んでいます。気候変動への対応が求められるなかで、環境への意識は確実に高まりつつあり、私たち一人ひとりが行動の必要性を受け止め始めています。このテーマは、今後さらに重要なテーマとなっていくでしょう。