金属表面に魂を吹き込む

仕事内容はさまざまですが、いつでも強い情熱を持っています。私は建築家であり、大工であり、デザイナーでもあり、ブカレストを拠点としています。作品にはコンクリート、木材、金属を扱い、家から小さな家具に至るまで、これまでのキャリアの中ではさまざまな物を作ってきました。

プロジェクトはすべて固有のものであり、複雑です。私は、制作物すべてについて特定の要件を考慮に入れる必要があります。結局のところ、デザインとは、技術的、文化的、スピリチュアルな要素をまとめた交響曲のようなものです。時には、インスピレーションの波に乗るだけのこともあります。そこが自分の仕事を愛している理由です。

これはとても珍しい依頼だったので、わくわくしました。大抵の場合、デザインプロジェクトは家やショールーム、公共スペースなど、ひとつの場所で展示されるものです。このチェアは、「BONDERITEは世界を駆け巡る」プログラムの目玉であるという点でユニークでした。世界中を旅し、さまざまな人々がチェアに触れます。そのアイディアが気に入りました。

このチェアは興味深い課題も切り開いてくれました。デザインとは感情に訴えるものだと私は信じており、ヘンケルチームは人々の心をつかむデザインを求めていました。とはいえ、鉄やアルミニウムは冷たくて硬いものです。私にとって、これらの材料に生命を与え、BONDERITEの革新性やサステナブルな表面処理について語る方法を模索することは、興奮を誘うことでした。私は、金属表面に魂を吹き込みたかったのです。

予想以上の自由度がありました。デザインには、鉄とアルミニウムを考慮に入れる必要があり、分解と組み立てを簡単に行える必要がありました。また、椅子には一般的ではないスチールチューブを使用する必要もありました。それ以外の点では、プロジェクトに没頭して何か特別なものを制作する自由がありました。

デザインプロジェクトは説明が難しいことが多いです。インスピレーションは波のように行き来します。私の場合、心の中にイメージが湧いて、それが時間の経過とともに鮮明になります。私はまず、プロジェクトのエモーショナルな部分に飛び込み、それから次第に、さまざまな表面、ボルトで部品を接続する方法、ロゴを入れるスペースの必要性など、技術的な制約に多くの時間を用いるようにしました。ヘンケルのチームとは緊密に連絡を取り合い、デザインには関係した人々の情熱が大きく反映されました。最初の打ち合わせから最終的な制作まで4ヵ月かかりました。

勿論です。プロセスの中にはすんなりと進んだ部分もありましたが、いくつかの異なる方法で挑戦してやっと最善の解決策を見つけられたというようなこともありました。厚い金属板を使って制作しましたし、金属表面やその特性、BONDERITEの製品群についても、たくさんの新しいことを学ぶ必要がありました。 

未知の分野へと私を誘い、新たな領域への扉を開いてくれることで、素晴らしいインスピレーションを私に与えてくれました。将来、大きな金属部品を使用した作品をさらに生み出せると思います。

生涯に一度のようなプロジェクトに関われたことを本当に誇りに感じています。新たにデザインするたびに、自分自身についても少しずつわかってきます。この経験すべてに感謝していますし、「BONDERITEは世界を駆け巡る」プログラムを見守ってゆけることにわくわくしています。人々は優れたデザインを感じ取ります。たとえ具体的にどこに惹かれているとはいえないとしてもです。私にとって、それは魂が吹き込まれていることを意味しています。とても特別なことに思えます。

Ștefan Zwart（ステファン・ズワルト）は、家具と近代デザインに情熱を注ぐ、ルーマニアの新進気鋭で若手の大工兼デザイナーです。ブカレストに住み、最高クラスの作品とディテールへのこだわりで知られています。彼の探求するものは、正確なラインと繊細な特徴とバランスの取れた頑丈な部品を特徴としています。ステファンは常に天然素材とシンプルなプロポーションの中に美を追求しています。